スキーウェアの選び方・基礎知識
スキーウェアの選び方のコツは、値段と機能のバランスを理解することです。同じようなデザインなのに、値段が全く違ったりする場合、何が異なるのか。それを理解すれば、スキーウェアの選び方は難しくありません。
ポイントとしては、色やデザイン、機能、サイズ感、値段の相場、スノボウェアとの違い、といったあたりです。
ここでは、初心者から中級者レベルの人に向けて、スキーウェアの選び方をご案内します。
スキーウェアとは何か
最初に、「スキーウェア」とは何を指すのか、について書いておきましょう。スキーをするときには、下着(アンダーウェア)の上にミドルレイヤーを着て、その上にスキーウェアを着ます。
つまり、スキーをする際のアウターが「スキーウェア」です。スキー用のアンダーウェアやミドルレイヤーについては、このページでは紹介しません。
スキーウェアの基本的な機能には、大きく分けて、防水性と透湿性、防風性、保温性があります。水を防いで、湿気を通す、風は通さず、暖かい、ということです。
スキーウェアの防水性
スキーを滑るとウェアに雪が付いて濡れるのは避けられません。雪が溶けた水が身体に付くと熱が奪われ、雪山では致命的な問題になってしまいます。そのため、スキーウェアには厳しい防水性が求められます。
防水性とは、生地の表面に水滴が乗った状態で、上から抑えたとしても(圧をかけても)、水が浸入してこないことを指します。水圧をかけても水が浸入しない生地を「防水性能がある」といいます。
防水性能は、「耐水圧」で示されます。耐水圧とは1平方センチあたりに、どの程度の水圧がかかっても水がしみこまないかを示す数値です。傘の耐水圧が250mm程度、体重75kgの人が濡れた場所に座った時の圧力が約2,000mm、濡れた場所へ膝をついている時の圧力が約11,000mm程度といわれています。
スキーは雪という濡れた場所で行うスポーツなので、最低限10,000mm程度の耐水圧は必要です。スキーにおいて防水性は非常に重要なので「耐水圧10,000mm」という基準を割るウェアは着るべきではありません。山スキーなど、ゲレンデ外滑走をするのなら、最低でも20,000mm以上が必要と言われています。
この数値は、新品の耐水圧ですので、クリーニングや使用時の摩擦によって機能は低下します。使用時には考慮に入れておきましょう。
スキーウェアの透湿性
生地に防水性能を持たすには、防水加工をします。防水加工には「不通気性加工」と「通気性加工」とがあります。不通気性加工は一般的な防水処理で、水も空気を通しません。
しかし、水も空気も通さないと、着用していると汗でウェア内が蒸れてくることがあります。この欠点をなくしたのが「通気性加工」です。通気性加工の代表格はゴアテックス(GORE-TEX)で、水は通しにくいのに空気は通しやすいので、ウェアの中が蒸れにくくなっています。こうした生地を「透湿性素材」といいます。
「透湿性」は、「mg/m2/24h」という単位で示されます。生地1平方メートルあたり、24時間で何gの水分を透過させるか(外に出すか)という基準です。衣服内の蒸気状態の汗を、どのくらい生地が透過させるか(外に出すか)が、この数字でわかります。
例えば、透湿性10,000であれば、1日(24h)で1平方メートルあたり10,000g(10kg)の水蒸気の汗を透過する(外に出す)能力があります。
一般的な発汗量の目安は、1時間あたり安静時で約50g、軽い運動で約500g、激しい運動で約1,000gと言われています。これを24倍したのが透湿性ですので、透湿性の理想は、激しい運動でも十分な水蒸気を排出する24,000以上となります。そこまでいかなくても、20,000あれば激しい運動をしても蒸れを気にすることはないでしょう。
安価なスキーウェアは、透湿性が1,000~2,000くらいのものも少なくありません。そういう素材のスキーウェアは、そもそも「透湿性」の数値を表示していません。
ゲレンデスキーは、汗はかきますが、汗まみれになるほどのスポーツではありません。ですので、少々蒸れるのを我慢できるなら、透湿性が低くても大きな問題はありません。標準価格帯のウェアなら透湿性4,000~8,000くらいで、これだけの数字があれば十分です。上級モデルのスキーウェアには透湿性20,000以上の商品もありますが、ややオーバースペックです。
参考までに、有名な透湿性素材の数値を挙げておきますと、GORE-TEX(ゴアテックス)が25,000〜98,000、モンベルのドライテック8,000~20,000などとなっています。透湿性素材でも数字を明らかにしてないものもありますが、透湿性の高機能素材は、おおむね10,000は超えているようです。
透湿性素材は高価なので、透湿性の高いスキーウェアは値段も高くなります。防水性は妥協すべきではありませんが、透湿性は予算と相談して妥協する、というのがスキーウェアの選び方のコツです。
スキーウェアの撥水性と保温性
防水性、透湿性と似た言葉で「撥水性」という言葉もあります。撥水性は、文字通り素材表面で水をはじく性能です。撥水性は、あくまでも水をはじくだけですので、高い水圧がかかった場合に、水の侵入を防ぐ性能はありません。防水スプレーなどをかけると撥水性が得られますが、その程度のものです。
スキーウェアでは保温性能も大事です。スキーウェアの保温性能は、外側素材のほか、中綿や裏地によって決まります。ただ、スキーウェアの保温性能を明確に示す数字はありません。
どのスキーウェアも、保温性能のPRしていますが、それがどの程度の水準なのかは、正直なところ、着てみなければわかりません。
保温性が高い素材としては羽毛があります。羽毛は暖かかいですが、温度調整がしにくいという欠点もあります。春スキーでは暑すぎて困ることもあるので、ゲレンデスキーにはあまりおすすめはしません。
最後に防風性能にも触れておきますが、ほとんどのスキーウェアは首回りまでしっかり風を防ぐようにできているので、とくに気にしなくていいでしょう。
スキーウェアの種類
スキーウェアをタイプ別に見ると、「デモ・基礎スキー向け」「バックカントリー向け」「レーシング向け」の大きく3つに分けられます。
デモ・基礎スキー向けは、シルエットの美しさ重視しています。そのため、全体としてタイトな作りになっています。値段が高い商品は、保温性も高く、袖口やポケットなどの加工もしっかりしています。
バックカントリー向けは、ゲレンデ外滑走を考慮に入れているので、デモ・基礎スキー向けに比べて機能を重視しています。防水性や浸透性を高くして、なおかつ重量が軽いです。一方で、保温性が低いため、温度調整はアンダーウェアなどで行います。
レーシング系向けは、身体の動きやすさが重視されるので、作りがゆったりしています。保温性やストレッチング性に優れており高価です。
一般のスキーヤーはデモ・基礎スキー向けのウェアが適しています。手頃な価格ですし、上下セットの「スーツ」も販売されています。バックカントリー向けやレーシング向けは、「上下セパレート」が一般的です。
スキーウェアとスノボウェアの違い
スキーウェアとスノボウェアには作りに多少の違いがあります。最大の違いはスキーウェアには、パンツの足元に「エッジガード」がついていて、スキーのエッジで裾がほつれないようになっています。
スノボウェアにはエッジガードが付いていないので、スノボウェアでスキーをする際は、裾に注意する必要があります。
そのほか機能的には、スキーウェアに比べてスノボウェアは耐水圧の高い素材を使っていることが多いです。これはスノボは雪に座ることが多いためです。
また、スノボは転倒しやすいので、ジャケット裾の「パウダーガード」がしっかりしていて、転倒しても雪がウェア内に入りにくい仕様になっています。
全体の作りに関しては、スキーウェアのほうがタイトになっていて、スノボウェアのほうがゆったしています。これは、滑っているときのシルエットが、スキーはタイトなほうが美しく見え、スノボはゆったりしたシルエットのほうが格好良く見えるから、という程度の理由です。
結論を言うと、エッジガードやパウダーガード以外に機能的に大きな違いはないので、スノボウェアでスキーをすることも可能です。
スキーウェアの色の選び方
スキーウェアの選び方で、現実にいちばん悩むのが「色」ではないでしょうか。ショップに行くと、パステルカラーのウェアが多く「こんな派手なの着ていいのかしら」と頭を抱える人もいるようです。
ただ、スキーウェアは普段着の感覚で選ぶべきではありません。というのは、白一色のゲレンデ世界では、街中と違う色感覚になるからです。
一言でいえば、「派手なものを着るべし」に尽きます。純白のスキー場では、そのくらいの色のほうが映えます。おすすめは、赤、オレンジ、黄色といった暖色系です。逆に、青や黒といった寒色系は、やや地味に見えます。
安全面からみても、寒色系は、視認性が悪くなります。万一の遭難などが起きたときに、捜索がしにくいので、その点でも派手な色のウェア(エマージェンシーカラー)のほうがいいでしょう。
スキーウェアのサイズ感
スキーウェアのサイズの選び方は、普段着と同じでいいでしょう。普段の洋服を「Lサイズ」で着ているなら、スキーウェアもLサイズで大丈夫です。
アンダーウェアをもこもこに着るならワンサイズ上でもいい、という人もいますが、丈の長さなどが合わなくなるので、あまりおすすめしません。
迷ったら、やや大きめを選ぶべきです。スキーは身体を大きく動かすスポーツなので、サイズが小さいと関節回りが突っ張って動きにくくなるからです。
とくに、パンツのサイズは要注意です。足にスキーブーツを履くので、それとマッチする長さにしないといけません。裾が短いと寸足らずになり、雪が入り込んできます。試着したとき、少し長いかな、というくらいでちょうどいいでしょう。裾が地面に触れるか触れないかくらいのサイズ感が適切です。
スキーウェアは、ジャケットとパンツが上下別々で販売されていることが多いですが、これは、上下でサイズ感が異なる人が多いためです。
スキーウェアの細かい機能
スキーウェアを買うときは、細かい機能にも目配りをしたほうがいいでしょう。なかでも大事なのはポケットの位置と数です。
とくに、ファスナーが付いているポケットがどれだけ、どこにあるかもきちんと確認しましょう。
すべてのポケットがファスナー付きでなくてもいいですが、最低限、内ポケット1つ、外ポケットに2つくらいはファスナーが必要です。ファスナーがないと、財布など大事なものを収納できません。
また、リフト券を収納するIDパスケースが付いていると、リフト券をどこに入れるかで困りません。スマホを入れるモバイル対応ポケットや、ゴーグル用ポケットもあると便利です。
フードはヘルメット対応になっていると、メット着用時にも活用できます。手首回りがしっかり締めやすくなっているかもポイントです。安いウェアは、手首がゴムになっているものもありますが、ゴムだと手袋との間に隙間ができやすく、寒いです。
スキーウェアのブランド
スキーウェアのメーカーは、デサント、フェニックス、ゴールドウィン、ミズノ、オンヨネあたりが代表的です。この5メーカーならどこでも大きな間違いはなく、商品も多彩で選びやすいでしょう。
おおざっぱな特徴を書くと、デサントは発色がきれいで、機能的にもバランスのいいウェアが多いです。フェニックスはデザイン性が高く、競技向けのウェアも豊富です。ゴールドウィンは軽量で保温性が高く、機能的なウェアにが得意です。ミズノは生地が柔らかく、細かい機能も行き届いています。オンヨネはキッズ向けに強いです。
スキーウェアのジャケットとパンツが上下セットで販売されているものを「スーツ」と表現することもあります。「スーツ」も「上下セット」も意味は同じです。「スーツ」だからといって、上下同じ色とは限りません。
スーツのほうが、お手頃な価格のものが多いです。高機能製品は上下セパレートで販売されているのが一般的ですが、プレミアムタイプの高機能品もあります。
スキーウェアの値段の違い
スキーウェアの値段には幅があります。ホームセンターなどの一般量販店や、Amazonといった通販では、上下セットのスーツで5,000円くらいのものもあります。一方、スキー専門店に行くと、そこまで安いウェアは置いておらず、逆にジャケットだけで50,000円くらいする高機能品を販売していたりします。
スキーウェアの値段の違いは、防水性能、透湿性能、保温性能、ストレッチング性能のほか、縫製やポケットの数などの細かい作りによります。「安くても高くても大差ない」ということはなく、5,000円のスーツと50,000円のジャケットには明確な差があります。しかし、値段差ほどの価値の違いがあるかは、個人の価値観によるでしょう。
全くの独断ですが、初めてスキーウェアを買うのなら、市販価格で20,000~30,000円くらいの上下セットのブランド品を買うのが、間違いが少ないです。
このくらいの値段のブランド品なら、基本的な性能は満たしていて、本州のゲレンデを滑る限り寒さに震える可能性は少ないです。北海道に行く場合もインナーやミドルレイヤーを工夫すれば大丈夫です。
上下セットで10,000円以下のものでも、防風・防水性能など、最低限の機能は満たしていると思いますので、本州のゲレンデで使う分には問題ないでしょう。ただし、安いスキーウェアは保温性能が弱いことがありますので、厳冬期や極寒地で使う場合は、インナーを厚めに着るなど気をつけた方がいいでしょう。
たとえ上下5,000円のスキーウェアでも、レンタル品よりは自分のウェアのほうが気分がいいものです。スキー板はレンタルで済ませてもいいと思いますが、スキーウェアに関しては、安くてもいいので、自分のものを買って滑りに行くことをおすすめします。
Amazonや楽天では、マイナーブランドの低価格品がたくさん出ているので、最初はそれで試してみて、次からはブランド品を買うという考え方でもアリだと思います。